パシりになろう

私が高校のとき、同じクラスに不良の友達がいました。
その人とはそれほど親しかったわけではないのですが、私も学校はかなり休みがちだったので不登校同士、顔を会わせることが多く、なんとなく親しくったのです。
休日に遊ぶほどは仲良くないのですが、学校に来て、なんだか面倒くさくなって早退すると、バス停でその人と偶然会ったりして昼食を一緒にとるといった仲です。
その人はすごく不良なのですが、なぜかノートをまじめにとる学生でもあり、試験前はよくノートをコピーさせてもらっていました。
また、不良には不良の人脈があるもので、優等生だけど不良みたいな人のノートをどこからともなく入手してくることもあるのです。
おまけに、私が「数学のノート貸してくれない?」と頼むと、なんとコピーを渡してくれるのです。コピーをとりたいからノートを借りるのですが、既にコピーが取ってあるのです。なんと優秀なことでしょう。これが仕事のできる人なのです。
ある時、どうしてもノートが手に入らないことがありました。不良仲間でつるんでいても、1年生くらいだとノートくらい誰かがとってくるのですが、2年生になると、次第に誰も授業に出なくなりノートも当然ないし、おまけに完全にクラスから浮いてしまって不良同士の人脈以外はなくなってしまうのです。
そこで、私がいつもお世話になっている恩を返そうと、他のクラスの優等生からノートを借りることを提案しました。
私は全然知らない人に話しかけることが得意なのです。
ノートを借りることは首尾よく成功。ところが次の時間にノートを使うというので休み時間の間にノートのコピーをとらなくてはいけません。私たち不良は授業なんか出ても出なくてもいいので、コピーは授業中にとるのですが、他人のノートとなるとそうはいきません。混んでる休み時間のうちにコピーをとらなくてはいけません。
休み時間のはじめの数分はノートを貸してくれと頼む時間に消えていますから、コピーをとる時間はほとんどありません。ないどころか、授業開始のチャイムが鳴る頃にようやくコピーをとりはじめるという具合です。
私は「悪いことをしてしまったな、もう二度とノートを貸してくれないかもしれない」と思っていたのですが、先ほどの不良がものすごい早さでコピーをしてしまったのです。
コピーは実は写している時間と印刷している時間があります。印刷している時間さえ、コピー機に挟んでおけばいいので、コピー機が動いていても原本を変えることができるのです。
「早い! 早いよ!!」
感動する私に、
「中学のとき、怖い先輩によくやらされてたんだ!」
そ、それは噂には聞く「パシり」というやつなのでは!
衝撃です。「パシり」ってこんなにカッコイイことだったのかという衝撃です。

結局、数分遅れたものの、先生が来る前にノートを首尾よく返すことができ、私たち不良はお昼前だというのにコピーを持ってゲームセンターに走って行ったのでした。